Miracle Smile  『抱きしめたくなる10のお題』
            〜年の差ルイヒル・別のお話篇

              *お兄さんたちが 高校生Ver.です、悪しからず


11月の末というと、
高校生のアメフト世界では、
関東・関西それぞれのナンバーワンチームが決定し、
いよいよの全国制覇を目指す正念場、
高校王者を決めるクリスマスボウルを前にして、
関係者一同が相当に意気込む頃合い。
その創設期からこっち、
関西の強豪が連覇を続けていたらしいが、今年はどうだか判らないぞ、
王城高校の新生ホワイトナイツには、あの高校最速の進がいる。
それに、長身を生かしたハイタワーパスを磨いた、
ついでに…何がどう関わったか、
根性も相当に磨いた桜庭もいるとあって、
(あはは)
今年こそ常勝軍団の鼻を明かせるかもという、
そんな下馬評が記者陣営の間でも取り沙汰されており。

 「ン十年前のサッカー界が、こんな感じだったんだろな。」

スポーツ新聞各紙を手元へ広げつつ、
さすがに第一面での扱いではないながら、
それでも学生スポーツが唯一話題になる時期ならではの、
インタビューコーナーやら戦歴紹介やら、
鼻歌交じりに眺めていたおチビさんが。
突然、別のスポーツの話を振ったりしたものだから、

 「ああ?」

何だなんだ何を言いだすかなと、端的な一声で聞き返せば。
結構恐持てのする風貌のお兄さんが、
目許を顰めて ますますとおっかないお顔になったのにも構わずに、

 「だからさ、今でこそあのW杯にも、
  何とか予選は制して出られるようになった全日本だけど、
  その昔、ン十年前はさ、アジア予選の時点で負け倒してて。
  そんなせいか、
  華やかなりしは学生スポーツの段階まで、
  なんて印象が強かったのが。
  今はプロ野球レベルでメジャーになってんじゃん。」

某サッカー漫画で、
大空某くんが何かにつけて“W杯で優勝するのが夢だ”と豪語し、
だってのにそれを周囲の人たちからは鼻で笑われてた時代です。
きっと“俺は海賊王になる男だ”レベルだったのでしょうね。

 「そっちだって、
  昔はともかくこいつなら出来るかも知れねぇって前提だろうがよ。」
 「……わんぴーすの話は置いといて。」

わざわざ…見えない箱を右から左へ移動させるジェスチャーつきで、
話を大きく戻した妖一坊やであり。

 「関西の、帝黒だっけ?
  今時はそんな珍しくもねぇけどよ、
  あちこちの有力選手を金に糸目もつけずでスカウトし倒して、
  そんな連中の間で更に淘汰を重ねてって格好で精鋭を絞ってんだろ?」

その時点で既に“全日本”って顔触れになってんじゃねぇかよな、なんて、
どこか憤然とした言いようをする小悪魔様。
どんな手段も選ばないってやりようへは、
いつもさして憤慨しないこの坊やでも、
さすがに…アメフトに限っては腹に据えかねるのかなと、
微妙に意外だなぁと思った葉柱だったけれど、

 「そういうチームは、
  是非ともプロ辺りと当たってもらって、
  オッズへのヒントを曖昧にしてもらわにゃあ、」

 「待て待て待て、こら。」

何の話だそれ。
いやいや、だからサと、
まだまだ細っこい造作の小さな手の中、
人差し指を一丁前にもピンと立て、

 「モグリの賭場っつうか、お遊びでの賭けをするサイトがあったりしてだな。」
 「…よういち。」
 「俺がオーナーなんじゃねぇやい。」
 「当たり前だっての。」

ケースによっちゃあ犯罪行為だぞ、と。
切れ長な三白眼をギンと尖らせた、
自分だって微妙に犯罪の“暴走行為”に関わってた葉柱総長であり、

 「そういうとこへは出入りも禁止だ、この野郎。」
 「ほ〜い。」

ちょみっとふざけた調子ながら、判りましたとのいいお返事を返せば、
判ればよろしいと、大好きな大きい手がぽそんと頭に乗っかって。
そのままこっちの金の髪、
ちょうどいい重さでもって、わさわさわさって撫でてくれたから。
嬉しかったのと同時、ルイのご機嫌も直ったようでとホッとする。

 “しまった、しまった。”

いかさまが出来ないようなシステムを組み上げるの手伝ったなんて、
ややこしいからどう説明したって通じなかろしなと。
実はしっかり関係者だったの……誤魔化したな、おい。
(苦笑)

 「さぁて、俺らも練習だ。」

今年のクリスマスボウルに出場する代表は、関東でもとっくに決まっており。
葉柱主将を筆頭に、チームのみんなも頑張った、
小悪魔様も頑張って応援もしたものの、
残念、今年の関東勢の代表チームは、
先日の決定戦の結果、王城のホワイトナイツと落ち着いており。
賊学カメレオンズは“また来年”という“ふりだし”へ戻った身。
だからって、それまでをクダ巻いてくすぶってたり、
冬眠していていいってもんじゃあなくて。
来期も頑張りたいのなら、
体力が落ちぬよう、反射がなまらぬよう、代謝が落ちぬようにと、
恒常的にトレーニングは続ける必要が大ありなため。
こちら様でも、卒業後は就職するクチの方々以外は、
大学部の練習へ混ざりに行ったりと、
この時期でさえ本格的な練習を欠かさない辺り。

 “結構、マジメな“族”だよなぁ。”

どっか矛盾してるって?
いやいや、やんちゃ者ほど
打ち込んでるものへはトコトン真剣なんだって、と。
ウククと それは楽しそうに笑った子悪魔さんが、
駆け出した先のグラウンドへも、
透明感を満たした秋空の下、
そろそろ冬ですよという冷たい風が、容赦なく吹きつけていたけれど。
こんなもん、チョロイチョロイとの元気な駆け足繰り出して、
遠くまで響くぞ高見博士特製ホイッスルを手に、
お兄さんたちへの鬼コーチへと大変身。

 「まずはランニング、外苑周回、行くぞ〜〜〜っ!」
 「おーっ!」





      ◇◇◇



そしてそして、
栄光の関東代表の座についたこちら様、
王城高校のホワイトナイツのグラウンドでも。
こちら様は特別何か変わったというものもなくの、
それは淡々と整然と、
いつもと同じトレーニングメニューが消化されていたのだが。

 「うう〜〜〜、結構緊張はあるよな。」
 「何だよ、今更。」
 「だってよ、今年は関東大会もえらいこと手古摺ったじゃねぇか。」

そりゃまあ、毎年顔触れは変わるって理屈は判るが、
春の大会を圧勝で優勝したはずのホワイトナイツだったのが、
秋の本大会では、まあまあ苦戦の連続で。
楽勝かと思われていたところが、そんな苦難の道だったものだから。
これよりとんでもない相手なんだな、帝黒って…と。
若さゆえの柔軟な想像力が、
余計な疑心暗記まで招いていなくもない顔触れが、
こんな強豪チームにでさえ ちらほらといるらしく。

 「まあ、判らんではないけれど。」

要は生真面目な顔触れが少なくはないからこその、
慎重さが出ちゃった反応かもねと。
しょうがないなぁと苦笑をしてしまう桜庭レシーバーの傍らで、

 「そうやって自分に呑まれていては始まらぬ。」

ぼそりと呟く、低いお声がしたものだから。

  “…………はい?”

口数少なく謙虚で努力家。
微妙にまだまだ未熟な存在に冠されるべきそんな形容詞を、
既に高校最強のラインバッカーの身で、
それでもまとっておいでの二年生。
どんだけ練習好きかという仁王様が、
間違いなく放ったお言いようだったもんだから、

 「お…お前がそんな“感想”を言うのって珍しいよな。」

緊張するよなとか、微妙に不安をこぼしていた面々への反応だったなら、
お前にしては それは珍しいことだねと。
一応は言葉を選んでのお返事をした桜庭だったのへ。

 「………。」

む〜んと黙りこくってしまってのリアクションがなかったのこそ、

 “…うんうん、いつも通りの反応だよね。”

会話が成立しないのは今に始まったこっちゃない。
無礼な傲慢さから出ているんじゃなくて、
ややあってから、

 「そうだったか?」

自身の胸のうちにて、
いろいろと蓄積を引っ繰り返しまくってかららしきお答えを、
一応は返してくれる、基本、誠実な男なのにも変わりはなくて。

  ただ、

 「クリスマスボウルが終わるまでは、」
 「あっ、………あ、あああ、そうだったよね。」

そうだった、そうだった。
それはそれは愛らしくも無邪気なマスコットボーイのセナくんが、
向こうさんはまだ小学生だということもあって、
20日だか もう少しだか、
二学期の終業式が年末に食い込むほど、冬休みが遅いので。
こちらの気を散らしてしまっても何ですしと、
今年はクリスマスボウルが終わるまで、
逢いには行けませんとのメールを下さったらしくって。

 “昨年は、何で逢いに行っちゃいけないの?って、
  進さんてばメールもくれないの…って、泣きまでしたって話だったのにね。”

まだ一年生だった小さなセナくんには、
そういう段取りというのがなかなか判らなかったらしくって。
そこへ輪をかけて、メールくらいは構わなかっただろに、
いや、逢わぬと決めたからには…なんて。
我を張ることであんな小さい子をずんと寂しがらせた罰当たりへ、
子悪魔様がじきじきに駆けつけての仲裁してくれた話も、
もはや懐かしい1年前になるもんで。(…ツッコミ厳禁・笑)

 “いつにも増して、自分と戦ってるってワケなんだな。”

微妙に相手があってこそのそれだとはいえ、
大切で最愛の存在へ、
勝利という大きなお土産持って再会だという目標があるなんて、
むしろよっぽど人間らしいことかもと。
お不動様が見せた随分な進歩、
ほこほこと見守ってしまった桜庭さんで…………。





  「………………?」

厳しくも緊張感いっぱいだったトレーニングを終え、
引き上げて来たのはロッカールームで。
扉を開けたロッカーを見やった進が、一瞬その動きを止めたのは、
微妙に暗い中、ちかちかと点滅していた何かがあったから。

 「どした?」

何だなんだと桜庭が、
雄々しいラインバッカーさんの大きな肩越し、
見やった先にあったのは、
シンプルなデザインの携帯電話で。
この仁王様へと電話にせよメールにせよ寄越す人なぞ限られているため、

 「もしかして、セナくんからのメールかな?」

別段、確証もなしに言ったところが、そこからがなかなかの見もの、

  ――― しゅっ、という

加速音が聞こえたんじゃなかろかという早業で、
恐ろしきスピアが放たれる神速の手がモバイルを掴みしめ。
危うく潰しかかったのへと、ほらほら力抜いてと宥めてから、さて。

 「 …………。」

落ち着かせてから、やっとのこと、メールを開いた誰か様、
いきなり……垂直に開いていたロッカーの扉の縁へ、
自分の額をごつりと当てた。

 「しん?」
 「…俺は未熟だ。」

うなだれたまんまの仁王様の手元、
携帯の液晶画面には、
そりゃあ愛らしい坊やの満面の笑顔の写真が開かれてあり。


  『進さんへ、
   練習がんばってますか? セナもがんばってます。
   どーしてもかなえたいお願いがあるときどうしたらいーのってママに聞いたらば、
   大好きなものをガマンするといいのよってゆわれました。
   でも、それはあのね?
   進さんにあいたいの、ガマンしてるからもうやってるよね?
   こんながんばってガマンしてるから、
   進さん、絶対に試合かつよね?
   ばんばれー!』


うわあ、これは確かに最強の応援メールだと、
桜庭が感じたのは言うまでもなくて。
あんな小さい子が、まあまあ何て健気なことか。

 “ああでも、この場にいなくって正解だったねぇ。”

硬そうな拳をぐっと握りこめてるチームメイトを眺めつつ、
感極まった進から抱き潰されたかもだぞと、
何だか物騒なことまでも、
思ってしまったアイドルレシーバーでもあったそうな。
(ちょん)






  〜Fine〜 10.11.24.


  *某C翼は、今ドキの“いなずまいれぶん”も真っ青の、
   アストロ球団か…ってな(古い)とんでもない必殺技だしまくりな、
   凄んごいサッカー漫画でしたが、実は実は大好きでしたvv
   あれって、
   どんどん荒唐無稽化していったとか言われつつも、
   世界中の現在のスーパースターを生んだ
   奇跡の種にもなったらしいのが侮れません。

  *それはさておき。
   高校生Ver.ということは、
   ヨウイチくんトコのお父さんがまだ戻って来てないってことだよなと、
   いちいち書いてる人間が確認してりゃあ世話はなく

   ……じゃあなくて。
(苦笑)

   原作とは ちょこっと
   流れを変えさせていただいてます、すいません。
   そもそも、
   蛭魔くんや瀬那くんがいきなりお子様なところからして、
   原作からは大きく逸脱しおりますので、
   それと連動してのことという解釈で、
   どうかご容赦くださいませ。
   打倒、帝黒! 進さん、ばんばれ!

   この後、栗田くんと出会いの、
   自分たちもチーム作るぞと、麻黄中学へ進学して、
   そこで出会った武蔵さんとこの従兄弟の男の子も足しての、
   最初は3人でスタートとかいったら、
   いちびりすぎでしょうかね。
(苦笑)
   となると、セナくんは…どこから加入させましょか?
(おいおい)


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